夜に眠れないのだけれど、頭が痛くて本を読む気にもなれず、音楽を聴こうにも、音が頭に響きそう、という日がありました。
ああ、なんだか落ち着かないなあ。と思ったとき、好きな小説を頭の中で再生することを思いつきました。
学生時代、文学の先生が「好きな文章は暗記しなさい」とおっしゃったので、はじめの数行だけ暗記した、梶井基次郎の『檸檬』。
(例によってAmazon。これは角川文庫です。デザインがいいなあ。私が持っているのは数年前の新潮文庫。というか、この『檸檬』って数年ごとに表紙が変わってズルいと思う。私も2,3冊持ってます)
『えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦燥と云おうか、嫌悪を云おうか—–酒を飲んだあとに宿酔があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやってくる。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖カタルや神経衰弱がいけないのではない。また脊を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。………』
ここまでで、今の文庫本で4行半。私が憶えているのは8行目まで。
『………それで始終私は街から街を放浪し続けていた。』
(こうして書いてみると、漢字は全然覚えていない!)
短編小説とはいえ、最後まで暗記する自信はないです。でも、ここまで頭の中で再生すると、小説の世界が浮かんで、なかなか心地よい。
そこでもう一つ、中原中也の『サーカス』(『山羊の歌』)も。
『幾時代かがありまして/茶色い戦争ありました
幾時代かがありまして/冬は疾風吹きました
幾時代かがありまして/今夜此処での一と殷盛り/今夜ここでの一と殷盛り
………』
で始まりますが、この後に登場する『ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん』というフレーズが有名ですよね。
(中原中也の詩集をAmazonで見たら、表紙がすごいことに。某コミックに中原中也が登場しているらしく。)
今は何処にいても大体のものは検索できるし、いざとなれば本はダウンロードも可能。だけど、「自前のオフライン記録媒体」に保存というのも便利だなあ、と思いました。
昔の人は普通に暗記していたかもしれず、今、私たちは脳の使い方は確実に変わっていますね。昔は友達の家の電話番号もだいたい覚えていましたよね。暗記という部分を外部委託。
ipod に取り込むようにはいかないけれど、一年に一編くらい、詩や小説の断片を暗記するのもいいかもしれない。そう思うのですが、きっとやらないのだろうなあ。